釧路地方裁判所 昭和27年(行モ)2号 決定
相手方標茶町議会が昭和二十七年四月二十九日申立人に対してなした除名決議は、申立人相手方間の当庁昭和二十七年(行)第三号行政処分取消請求事件の本案判決確定に至る迄、その執行を停止する。
二、理 由
本件申立の要旨は、「申立人は昭和二十六年四月二十五日標茶町議員に当選し現在に及んだものであるが、相手方標茶町議会(以下相手方と称す)は昭和二十七年四月二十九日申立人を除名処分に処し以つて議員たる資格を喪失せしめた、その理由とするところは、申立人は標茶町が釧路土木現業所より借受けていた標茶町所在の堤防敷地一〇四、五坪を自ら使用せんと欲し、標茶町長が上京不在中に同町土木係に対し町長の諒解を得ていると称して堤防敷地使用願に町長の職印を押捺せしめ該書類を釧路土木現業所に提出したもので、此の行為は私行上のものでなく議員の資格において行われたものであるから公職者として町民の信託を裏切り議会の品位を失墜せしめ且つ議会を侮辱すること甚しいから除名するというにある。然し乍ら相手方の右処分は次の事由によつて違法であり、取消さるべきものと信ずる。即ち(一)地方公共団体の議会のその所属する議員に対し懲罰を行う処分が、所謂法規裁量処分に属することは地方自治法第百三十四条の規定に照して明らかであつて、同法条によれば「、、、、、議会は、この法律及び会議規則に違反した議員に対し、議決により懲罰を科することができる。」のである。然し乍ら相手方の申立人に対する前記懲罰理由は地方自治法に違反しないばかりでなく、標茶町会議規則にも右の如き理由を以つて懲罰を科することが出来るとの規則は何処にも存しないのであるから、相手方の除名決議は法の要求する要件を欠除した法規違反の処分といわなければならない。(二)相手方が昭和二十七年五月二十一日発表し、同月二十七日附北海道新聞朝刊に掲載された相手方の声明書中にも記載されている如く、前記堤防敷地が標茶町として使用の必要がなくなつたこと、町長が申立人に対し空地十間の内四間の使用を承諾したことは相手方もこれを認めているのである。のみならず町長が申立人に対し承諾の意思を表示する際には面積を限定して居らず単に空地であり町で必要のない土地であるから使用して差支ない旨言明したのである。されば町長が不在であつても土木係に町長の職印を押捺せしめたことは一般行政事務取扱上何等不都合ではない。何れの役所においても当該役所の長が不在の場合下部職員が適切なる良識の判断によつて当該長の職印を押捺することは公知の事実であり常識的慣例に属する。従つて何等違法でない申立人の行為に対し相手方が除名処分をなしたことは違法である。(三)仮に申立人の所為が、町長の諒解を得ていないで土木係に依頼して堤防敷地使用願に町長の職印を押捺せしめたものであるとしても、それは飽く迄も議場外における「個人たる本間」の行為であつて町会議員の職責上の行為であるということは出来ない。抑々議員に対し懲罰を科するには地方自治法及び町会議規則に違反した議員に対してなさるべきであるから、懲罰事犯が発生する場所は本会議及び委員会においてゞある。
本会議及び委員会以外における言動がよしんば不穏であつたとしてもそれは懲罰事犯とはならないのである。従つて議員としての職責遂行上において為された行為のみが懲罰の対象となされねばならないことも亦多言を要しないところである。仮令申立人の行為が法律上道義上非難される行為であつたとしても、それが議場外における私行である以上、これをとり上げて除名の理由とすることは地方自治法に定める議員懲罰の立法趣旨を逸脱したものとして許さるべきことではない。(四)昭和二十七年四月二十九日招集された標茶町議会は、本件に関する議題を上程するや直ちに議長は秘密会に入る旨宜告し、爾後閉会に至る迄秘密会のまゝ審議議決を行つたもので、斯くの如きは議事公開の精神に違背せるものである。又昭和二十七年四月二十一日の議会において堤防敷地使用権の問題に関する議題の上程以後、同年四月二十九日の除名決議成立に至る間、議会は調査機関を設け町長の職印の押捺状況その他除名理由となるべき一切の事情を調査せるにかかわらず、主要人物である申立人に対して全然弁明の機会を与えず且つ秘密会の議場において除名の決議のみを宣告し、除名に該当する理由の説明をなさなかつたことは、憲法、地方自治法、及び議事慣習に違背せる決議というべきであつて、以上の如き手続上の瑕疵によつても、相手方の除名決議は違法である。(五)若し仮に申立人に刑事法上の犯罪があるとするならば、夫々の国家機関においてこれを究明し処断することこそ当然であるが、司直の処断が確定した後であるならば格別、それ以前において相手方が申立人に対し本件の如く懲罰を科するが如きは地方公共団体の議会の本質を忘却せる越権行為というべきである。以上の諸事由によつて相手方の申立人に対する本件除名決議は違法なものであるからこれが取消を求めるため右行政処分の取消を求めて訴を提起し右訴は釧路地方裁判所昭和二十七年(行)第三号として同地方裁判所に係属した。然し乍ら右本案訴訟の判決が確定する迄申立人対し議員たる資格を剥奪しておくことは多数の選挙民によつて選出された議員としての職務執行を不能にし償うべからざる損害を生ずる虞が大であるので本件執行停止の申立に及んだ次第である」というにある。
よつて按ずるに、相手方がなした本件除名決議が果して申立人主張の点で違法であり、取消を免れないものであるかどうかは、本案審理の上でなくてはにわかに判定出来ないところであるが、当事者の意見を聴き疎明資料を精査し且つ諸般の事情を考慮した結果差し当り申立人の主張を正当と推測して右除名決議の効力の発生を停止べき緊急の必要がある場合と一応認める。而して行政事件訴訟特例法第十条第二項に所謂処分の執行停止とは、単に行政処分に基きその執行行為として現実に何等かの法律行為又は事実行為がなさるべき場合にこれが執行を停止することを意味するに止まらず、広く本件除名決議のように行政上の意思表示の効力の発生を停止する必要のある場合をも含めて考えるのが相当であるので、同法第十条第二項第四項に基き、主文の通り決定した次第である。
(裁判官 石垣光雄)